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HOME > コラム > 時事法律コラム > 「養育費の不払が子どもの貧困を招く」

時事法律コラム
冨永

2018/05/10

【民事】 養育費の不払が子どもの貧困を招く

冨永忠祐

わが国では現在、子どもの貧困が大きな社会問題になっています。厚生労働省の調査によると、平成27年における17歳以下の子どもの貧困率は13.9%とされています。貧困率とは、大雑把にいうと、高所得者と低所得者の中間値を基準にして、その半分以下の所得で暮らす人の割合のことです。中間値の半分以下の所得では真っ当な暮らしはできないと考えられているのです。したがって、わが国のおよそ7人に1人の子ども(17歳以下)は、真っ当な暮らしをしていないことになります。具体的には、親と接する時間が少ない、日々の食事を十分に取っていない、進学を断念する、修学旅行などの学校行事に参加できないなど、さまざまな現象として表れます。

そこで、国は、平成25年に子どもの貧困対策推進法を制定し、平成26年には子どもの貧困対策に関する大綱を閣議決定しました。この大綱の中には、経済的支援の一つとして「養育費の確保に関する支援」が盛り込まれています。すなわち、両親の離婚後、養育費の支払が適切に行われることは、親としての経済的な責任を果たすだけでなく、子どもの福祉の観点からも望ましいことであることから、母子家庭等就業・自立支援センターや養育費相談支援センター等において、養育費に関する相談支援を行うものとされています。

このように子どもの貧困対策として「養育費の確保」が掲げられている理由は、わが国では、養育費を支払わない父親が多いからです。厚生労働省の全国母子世帯等調査によると、養育費を受けている割合は、わずか2割程度にすぎません。裏を返せば、別れた父親の約8割は養育費を支払っていないのです。別れた父親から養育費が支払われず、やむを得ず母親が働きに出て家を留守にしがちで、しかも母親の収入が少ないので、おのずと子どもの貧困が発生してしまうのです。

そこで、福祉行政の一環として、養育費の確保を目指して、上記の各センター等において養育費相談事業が実施されています。しかし、この事業では、当事者の間に入って養育費の取決めを斡旋したり、父親から養育費を取り立てることはできませんので、限界があります。結局、現状では司法(裁判所)に頼らざるを得ません。

司法の世界では、養育費が支払われない場合には、家庭裁判所が父親に対して養育費を支払うように勧告できる(履行勧告制度)ほか、強制執行によって父親の財産や給料を差し押さえて養育費を回収するという強力な手段を執ることもできます。しかも、民事執行法が改正され、養育費の未払を理由に給料の差押えを1回裁判所に申し立てれば、その後は、自動的に毎月の給料の差押えが継続する仕組みになっています。それまでは、不払になった養育費の分だけが強制執行の対象でしたので、支払がなされない月ごとに申立てを繰り返す必要があったのですが、法改正によって母親の負担がだいぶ軽減されています。

ただし、強制執行制度を利用するには、養育費について取り決められた公正証書、調停調書、審判書、判決などが不可欠です。これらを用意するには、ある程度の労力と費用がかかります。また、強制執行を実施するには、母親が父親の財産や勤務先を具体的に知っている必要があります。もし離婚後に父親が音信不通になったり、勝手に転職してしまうと、差し押さえる財産や給料の所在が分からなくなり、強制執行ができないことになります。こうした事態を防ぐためには、父親と子どもとの面会交流が重要です。子どもと定期的に会っている父親は、突然行方をくらますといった非常識な行動はしないものです。実務の知恵ですね。

とはいえ、前述のとおり、現実には約8割の父親が養育費を支払っておらず、母親が泣き寝入りしているのが実態です。そのため、子どもの貧困が深刻な事態になっているのです。養育費の確保に向け、福祉行政と司法が連携して新たな取組みを構築することが急務です。



(2018年5月執筆)

執筆者プロフィール

冨永忠祐 (トミナガタダヒロ)

東京弁護士会 元副会長
同 高齢者・障害者の権利に関する特別委員会 委員長
日本成年後見法学会 常任理事 ほか

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