今回の民法改正で「瑕疵」は「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(契約不適合)という新用語に変わる。ところが、特別法である住宅の品質確保の促進等に関する法律に「この法律において「瑕疵」とは、種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう。」(同法5条5項)という規定を設け、住宅瑕疵担保履行法に「この法律において「瑕疵」とは、住宅品質確保法第2条第5項に規定する瑕疵をいう。」(同法5条2項)という規定を設け、特別法では、「瑕疵」という用語を使い続けるという。
そうすると、注文者が構造耐力上主要な部分の瑕疵や雨水の浸入を防止する部分の瑕疵を主張する際には、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく「瑕疵」が存在するため、改正民法562条に基づく追完請求をする事になる。
これに対し、請負人は、構造耐力上主要な部分の「瑕疵」は存しないが、木材の経年変化の程度が著しく、契約不適合の存在は争わないので、追完の意思あり、と反論をしたとしよう。
このケースで、裁判所は、判決書にて「瑕疵」と「契約不適合」をどのように使い分けることになるだろうか?
例えば、注文者の主張する「瑕疵」の存在は認められないが請負人の主張する「契約不適合」の存在は認められるという場合、判決書上、「瑕疵」と「契約不適合」の用語が混在することになるのであろうか?
この点、例えば、住宅の品質確保の促進等に関する法律第94条第1項に定める瑕疵は存在しない、といった記載の仕方であれば、当該「瑕疵」とは、結局「契約不適合」の意味を有するため(同法5条5項)、「瑕疵」と「契約不適合」は同等の意味を有することが判決書上明らかにされることとなるが、用語の混在による分かりづらさや、表現上の煩雑さは否めない。
同じようなケースは、注文者が雨漏りの「瑕疵」を主張し、請負人が雨漏りという住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく「瑕疵」は存在しないが、結露という契約不適合の存在を争わないといった事例でも生じうる。民法上の「契約不適合」と、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく「瑕疵」とでは、責任期間が異なる場合もあるため(住宅の品質確保の促進等に関する法律は引渡しから10年間の責任期間を定める)、「契約不適合」か、「瑕疵」かといった点が争点となることは十分に想定される。
私は、そもそも、改正民法にて「瑕疵」という用語に変え、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(契約不適合)という新用語が使われる事になったのであるから、特別法である住宅の品質確保の促進等に関する法律や住宅瑕疵担保履行法においても「契約不適合」という新用語を採用すべきであると考える。一つの欠陥現象に対し、注文者の主張・請負人の主張内容が異なることは往々にしてあるなかで、裁判所や当事者が用語を正確に使い分けることは非常に難しい。
2020年の民法施行まで、もう間もない。国土交通省は、再度、住宅の品質確保の促進等に関する法律及び住宅品質確保法を改正する検討に着手し、実務の混乱を来さないよう対応をするべきであると考える。
(2018年6月執筆)