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時事法律コラム
西内

2008/03/17

【民事】 説明義務

西内岳

―事故直後の患者側への説明と留意点―


1.医療において、医師・医療側からの患者・家族に対する説明義務(インフォームド・コンセント)が法律上厳しく問われる状況となってきていることはご承知のとおりです。

そして、この説明義務が特に医療において問題とされる背景、根本には、医師・医療側と患者側の各々の「医療」というものに対する認識の違い、ギャップがあるものと考えられます。医師・医療側は、医療は(経験科学であり)、それ自体危険性を有しており、そして不確実なもの(という宿命を有するもの)であり、したがって時として悪しき結果が発生することは不可避であるというのが概ねの認識であると考えられます。これに対し、患者側は、現代医学(療)は(自然科学を基礎とするものであり)、完成度は(比較的)高く、したがって、安全性が高く、かつ、大方のことは解明できるものであると概ね認識しているものと考えられます。この両者の認識の違い、ギャップが様々な場面において紛争の(根本的)原因の一つとなっていることが少なくないものと考えられます(したがって、医療側と患者側の相互理解を図り紛争を減らすために、この両者間の認識のギャップを解消するための方策が図られる必要があると考えられるところです。)。

本稿においては、その中から、不幸にして医療事故(ここで「事故」とは過失―ミス―の有無を問わず、悪しき結果が生じた場合の総称として使用します。)が起きた場合、それも直後における医療側から患者側への説明につき述べることとします。


2.事故が起きた場合にまずなすべきことは、患者側への説明です。これは、医師・医療側の説明義務の履践であると同時に、悪しき結果の発生により崩れかけた患者側との信頼関係を維持・構築し、その後のトラブルを最小限に留めるためにも絶対に必要なことです。

しかし、他方ではこの説明の仕方や方法を誤ると新たなトラブルを惹起してしまうことにもなりかねないので注意が必要です。

以下に、いくつかの注意点を列記してみます。

〈誰が説明するか〉

当該事故に関係する医療行為を行った者が説明することとなります。しかし、状況によっては当該医療者が動揺しておりフォローする者が必要であったり、場合によっては上司などが代わりに説明した方がよい場合もあるでしょう。また、後に言った言わないの争いをお互いに防止するために、当該医療者の上司や看護師などの第三者が同席することが望ましいでしょう。

〈何を説明するのか〉

この時点では事故直後であり不明な点も少なからずあることから、まずは「この時点で判っている客観的な事実経過」のみを説明しておけば足りるでしょう。

〈どのように説明するのか〉

ここで注意すべきことは、判っていること(事実)とそうではなく推測に基づくことを明確に区別して説明することです。この時点での推測は検証を経たものではなく、後で覆ることも充分にありうることであり、推測に基づくことを「事実」と誤解されかねない形で説明し、後でこれを覆すと患者側の納得を得ることは難しく、かえって無用の不信感を生み、それがトラブルへと発展しかねないからです。

医師が「推測、可能性(にすぎないもの)」と認識して説明したことを、患者側は「解明されていること、確定していること」としてとらえることはしばしば見受けられることであり、両者の認識のギャップは思いの外大きいことがあるのです(つまり、両者の言葉のやりとりが同じ基盤ではなく、異なった基盤の上で行われていることに両者は気付いていないのです)。

もし患者側からこの時点で死因について質問された場合には、判明している場合にはそれを説明するのはもちろんですが、判明していない場合には、その時点で考え得るものを説明するとともに、併せて「現時点では解剖も医学的検証も行っていないので原因は特定できません。後日検討の上ご回答します。解剖や医学的検証の結果、本日ご説明したことが変わるかも知れません。」と明確に断っておくことが重要です。

〈解剖を薦める〉

そして同時に、その時点においてはいくつかの死因が考えられるものの特定できない場合には、そのことを説明の上、解剖を薦めておく必要があります。近時は、医療側における死因解明義務も議論されるようになってきています。

〈患者側から謝罪を求められたらどうするか〉

患者に悪しき結果が発生している以上、医療者としては「最善の努力をしたつもりですが、このような結果になってしまい残念です。」という趣旨の発言は道義上あってしかるべきでしょう。この道義的責任と次の法的責任は異なるのです。

〈患者側から法的責任の有無を問われたらどうするか〉

事故直後の時点ではまだ解剖の結果や医学的検証および法的評価はなされていないのですから、「後日検証を行い、さらに法律の専門家とも相談の上ご回答しますので少し時間をいただきたい」旨を答えてください。

法的責任の有無は、まず事実を確定し、それに対して医学的評価を行い、最後に法的評価を行って初めて結論が出せるものであり、そしてそこに至るまでには以上の作業と手続が必要とされ、そのためにはある程度の時間を要します。そして、法的責任は、悪しき結果の発生により直ちに生ずるものではなく、その悪しき結果が過失により惹起された場合にのみ発生するのです。

〈説明した内容を記載する〉

最後に、以上の説明の内容、説明者や同席者の氏名、相手方の氏名、説明した年月日や時間などを、カルテや看護記録に記載してください。

その際にも、事実として説明したことと推測に基づくものとして説明したことを明確に区別して記載することが必要です。


(2008年3月執筆)

執筆者プロフィール

西内岳 (ニシウチタカシ)

民事調停委員(東京簡易裁判所所属)、東京三弁護士会医療関係事件検討協議会委員(元委員長)、HDLA(Hospitals, Doctors and Lawyers Association)会長、東京地裁・医療機関・弁護士会三者協議会協議委員・幹事、慶應義塾大学法学部講師

〈著 書〉
 「医療事故」(損害賠償法と責任保険の理論と実務 信山社2005年)
 「院内感染に関する最近の(民事)訴訟の動向と判例」(医療安全2005年6月号 No.4)
 「専門訴訟大系1 医療訴訟」(共著)(青林書院2007年)
など多数

〈講 演〉
 「損害賠償法の体系と実務」
 「医療訴訟の理論と実務」
 「ガイドラインの訴訟上の位置付け」
 「医事紛争の基礎知識」 「医療事故と医師の責任」
 「医療事故が起きた場合の対応」 「説明義務」
 「医療水準論」 「医療における個人情報保護法」
など多数

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