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時事法律コラム
冨永

2008/06/30

【民事】 養育費の支払の確保

冨永忠祐

離婚の際に、元夫が子どもの養育費を毎月支払うと約束したものの、次第に支払が遅れがちになって、やがて支払がストップしてしまうケースが少なくありません。統計によると、わが国では、離婚した後に養育費をきちんと支払っている元夫は、2割にも満たないと言われています。言い換えれば、8割以上の元夫が、養育費を支払っていないことになります。母子家庭の平均年収は約210万円。全世帯の平均年収が約560万円ですから、4割にも届きません。

そこで、こうした母子家庭を支援するため、昨年10月、厚生労働省が養育費相談支援センターを開設しました。養育費の確保を専門にした国の相談機関は、初めてです。家庭裁判所の元調査官などの専門家が、元夫への請求方法などについて相談に乗っています。

さて、養育費の支払が滞った場合でも、元夫が勤め人であれば、給料の差押えをすることが考えられます。ただし、そのためには、裁判所の調停調書・判決や公正証書などの書類が必要になります。その書類を持っていない元妻は、給料の差押えをするために、裁判所に調停を申し立てて、調停調書等を獲得するという手続を新たに採らなければなりません。

仮に、それらの書類がそろったとしても、従来は、毎月数万円のわずかな養育費を獲得するために、その都度、元夫の給料を差し押さえなければなりませんでした。これは、とても煩瑣なことです。そこで、平成16年4月からは、ある程度まとめて給料の差押えをすることが可能となりました。このことによって、給料の差押えの手続はだいぶ楽になりました。

しかし、元夫が会社を辞めてしまえば、給料の差押えもできなくなってしまいます。元夫の新しい職場が分かれば、再び給料の差押えをすることが可能となりますが、現実問題として、仕事と家事で忙しい元妻が、元夫の新しい職場を探すのは大変です。

平成17年4月からは、養育費の強制執行について、従来から認められていた直接強制(相手方の財産を換価して支払を受ける方法)のほか、新たに間接強制(相手方が履行しない場合には、制裁金を支払うように命じて、履行を心理的に強制する方法)によって行うことができるようになりました。しかし、義務者に資力がない場合には、この制度は意味がありません。

養育費の不払で犠牲になるのは、結局、子どもです。そこで、養育費支払の「逃げ得」を許さない仕組み作りについての研究が、近年、法曹関係者で盛んに議論されています。例えば、日本弁護士連合会は、平成16年に、養育費立替払制度の新設を提言しました。これは、養育費が支払われない場合に、国が義務者(元夫)にかわって、子どもを監護する者(元妻)に養育費を支払い、国が義務者(元夫)から回収する制度です。

スウェーデン等の諸外国では既に、養育費を公的機関が立て替える制度が実施されていますし、アメリカでは、天引き制度が設けられている州もあります。この天引き制度は、元夫の雇用主が養育費を給料から天引きして、これを直接に被扶養者に支払うものです。元夫が転職した場合でも、例えばミシガン州では、新雇用主が従業員に関する情報を州に申告する義務を負っていますから、元夫は養育費の支払(給料からの天引き)を逃れることができません。また、養育費を支払わない親に刑事罰を科す州もあります。

わが国の家庭裁判所には、養育費の支払を確保するための手段として、履行勧告と履行命令という制度があります。しかし、前者は、義務者(元夫)の自発的な履行を促す点で、一定の効果は認められるものの、強制力がないため、居直っている義務者(元夫)に対しては効果がありません。後者は、裁判所が義務者(元夫)に対して履行を命じ、これに従わない場合には10万円以下の過料の制裁がなされる制度ですが、あまり利用されていません。

厚生労働省は、上記のとおり相談体制を整えましたが、それだけでは不十分です。養育費の確保のために、どのような制度を構築すべきであるのか。諸外国の例を参考にして、早急に対策を練るべき時期が来ています。

(2008年6月執筆)

執筆者プロフィール

冨永忠祐 (トミナガタダヒロ)

弁護士(東京弁護士会所属)
日本弁護士連合会 調査室嘱託
東京弁護士会 綱紀委員会委員
同 高齢者・障害者の権利に関する特別委員会(虐待部会)委員
同 家族法研究部 事務局長
日本司法支援センター(法テラス)本部 専門職員
日本成年後見法学会 会員
日本家族〈社会と法〉学会 会員

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