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法案の解説と国会審議
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信託法及び信託法整備法が成立
−新たなビジネス創出を期待する声も
平成18年12月15日公布 法律第108号
著者:菱沼誠一
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法律案の経緯
信託とは、委託者が信頼できる受託者に財産権を引き渡し、一定の目的に従い、受益者のために、受託者がその信託財産を管理・処分する制度である。
現行の信託法は、大正11年の制定以来、80年以上にわたり、実質的な大改正もなく現在に至っている。しかし、この間、経済活動の多様化に伴って信託制度自体大きく発展し、目的も金融、投資等の商事分野から民事、公益など多岐にわたって、信託利用の金融商品も幅広く定着しており、信託財産総額は約710兆円(平成18年10月現在)に達している。同時に、信託法制定当時には想定されていなかった形態の信託の活用を求める声も強くなってきた。
このような状況の下、平成16年9月に設置された法制審議会信託法部会(部会長:能見善久東京大学教授)は、信託法の全面的見直しと現代化のため、同年10月より調査・審議を開始、翌17年7月、審議結果を中間的にとりまとめ、信託法要綱試案を公表した。
同試案及びその補足説明のパブリックコメント手続に対して寄せられた意見も踏まえ、同部会は、翌18年1月20日、「信託法改正要綱案」を決定し、同年3月13日、第164回国会に「信託法案(閣法第83号)」及び「信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(閣法第84号)」が提出された。両法案は、いわゆる共謀罪法案の審議等もあって、同国会衆議院において継続となり、第165回国会衆議院において、公益信託以外の受益者の定めのない信託に関する経過措置について修正の上、同年12月8日参議院本会議において賛成多数により成立した。
法律案の概要
法案の主な内容は、以下のとおりである。
1 信託法案
(1)過度に規制的な規律の見直し、受託者の義務等の内容の合理化
| | ア | 受託者の忠実義務に関する規定の合理化 |
| | | 信託における最も重要な義務ながら、現行法上明文規定のない受託者の忠実義務につき一般規定を置く。 |
| | イ | 受託者の自己執行義務に関する規定の合理化 |
| | | 現行法上は、やむを得ない場合等に限り、受託者から第三者への信託行為の委託が認められているが、現在の分業化社会に対応するため、信託行為に定めのない場合でも、一定の制限の下、信託事務の処理を第三者に委託することを許容する。 |
(2)受益者の権利行使の実効性・機動性を高めるための規律の整備
受益者の権利行使の実効性等を高めるための規律として以下の規定を置く。
| | ア | 受託者が忠実義務に反して利益を取得した場合は、信託財産が当該利益と同額の損失を被ったと推定する。 |
| | イ | 信託事務の適正処理の確保のため、受益者に対する情報開示を現行法以上に合理的・実効的なものにすることが望ましいことから、受託者に対して、(a)信託財産に関する情報の受益者への定期的な提供義務、(b)信託財産の種別に応じた書類の作成義務、(c)信託に関する書類の保存義務等に関する規定を整備する。
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| | ウ | 損失填補等の請求に加えて、受託者の任務違反行為の差止請求の制度
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| | エ | 受益者の多数決による意思決定の許容、受益者集会制度等の規定
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| | オ | 現行の信託管理人に加え、受益者が高齢者等である場合にも対応できるよう、受益者に代わって受託者を監視・監督する信託監督人の制度、受益者が多数あるいは変動する者である場合にも対応できるよう、受益者に代わって権利を行使する受益者代理人の制度
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(3)多様な信託の利用形態に対応するための制度の整備等
以下のような、新たな信託の類型を創設するなど制度の整備を行う。
| | ア | 自己信託(信託宣言) |
| | | 委託者自ら受託者となる自己信託を認めることで、会社が自らの事業部門を自己信託することにより当該事業部門を維持しつつその収益力をもとに資金調達を図れること、身体障害・知的障害を抱える者の生活をサポートするために予め特定の財産を自己信託し、自己の経済的な破綻等に備えておくことが可能になること等から、自己信託を許容する。
しかしながら、ライブドア事件等を契機として、自己信託利用の財産隠匿や課税逃れ等を懸念する声もあったため、施行を1年間先送りする。 |
| | イ | 受益証券信託 |
| | | 受益権の有価証券化を一般的に許容し、受益権の流通性の強化を図る。 |
| | ウ | 限定責任信託 |
| | | 責任が信託財産に限定される限定責任信託の制度を創設する。これにより、デリバティブ取引等、受託者の自由度がより高められることとなる。
他方、信託債権者保護のため、限定責任信託であることの公示義務、帳簿等の作成等の特例などに関する規定を整備する。 |
| | エ | 受益者の定めのない信託(目的信託) |
| | | 現行法上、公益目的に限定して認められている目的信託を、厳密には公益目的でない社会活動(例えば、特定の研究のために自らの出身校へ財産を信託するなど)でも許容することとする。
ただし、長期間の財の流通固定の弊害防止のため、有効期間を20年間に限り、濫用防止のため、その利用を、公益信託に係る見直しの状況その他の事情を踏まえて検討され、その結果に基づいて別に法律で定める日までの間、受託者を政令で定める法人に限定して認めることとする。 |
2 信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案
| | | 信託法の施行に伴い、旧信託法、信託業法その他63本の関係法律の規定の整備等を行う。
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国会における論議
両法律案は、衆参両院において一括して審議され、衆議院修正の後、両法律案は、両院本会議において、多数をもって可決、成立した。国会における主な論議は、次のとおりである。
〔信託法全面改正の理由〕 信託法が84年ぶりに全面改正された理由については、「信託制度を利用者の目から見てより合理的で使いやすくするためのもので、受託者と受益者の利益相反行為の禁止の緩和、受益者複数の場合の意思決定における多数決の採用、受益権の流通性の強化、限定責任信託や信託宣言の採用等を図ったものである」との答弁があった。
〔受託者の義務の合理化と受益者の保護〕 受託者の義務の合理化については、「受益者の承認により受託者が利益相反行為を行うことを可能にしたり、私的自治の原則に基づいて善管注意義務の軽減を認める」と同時に、「受益者の承認に必要な重要な事実の開示を要件としたり、受益証券発行信託等については義務の軽減を許さないことにしている」と答弁された。
〔自己信託の弊害防止措置〕 法案の審議を通じ、最も大きな問題となった自己信託による財産隠匿等のおそれに関しては、「自己信託の設定は公正証書等により」、「詐害行為の要件があれば、委託者の債権者が直接強制執行ができるという簡便な救済策を設け」るとともに、「信託の監督人という制度を」置き、「自己信託については施行を1年延期し、税金、会計等に関してより慎重な検討を行う」こととしたものであるとの答弁があった。
〔福祉型信託の担い手の拡大〕 高齢化社会において益々重要になる福祉型信託の担い手の拡大に関しては、「社会的信用を有する弁護士等が福祉信託の引受けを行うことができるようにすべきとの点についても必要な検討を行って参りたい」と答弁された。
〔事業信託等に対する税制の整備〕 事業信託等を用いた法人税の潜脱のおそれについては、「課税の公平あるいは中立という観点から」、「十分検討を行った上で、平成19年度税制改正において適切に対応していきたい」旨の答弁がなされた。
その他、公益信託改革の今後の展望、事業型信託におけるガバナンスの在り方と労働者保護の必要性等についても論議が行われた。
今後の課題
今回の改正は、基本的に、信託法の強行規定を任意法規化すると同時に、信託業法等関係法律も含め、必要な規制も行おうとするものであるが、受託者の注意義務の緩和に対する懸念や福祉型信託等への一層の配慮を求める声もある。今後は、これら各法律の適切な運用等により受益者保護の実効性を確保することや福祉信託の一層の拡大を図っていくこと等が重要となろう。
〈関連法令〉
・平成18年12月15日 法律109号 信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
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