平成18年7月、小泉内閣の下で策定された「基本方針2006」では、財政健全化が大きな柱の一つとして位置付けられ、成長力強化と財政健全化の両立が掲げられた。そこでは、23年度の基礎的財政収支の黒字化が目標とされ、そのためには11.4〜14.3兆円程度の歳出削減(社会保障費1.6兆円程度、公共投資3.9〜5.6兆円程度の削減等)が必要とされ、これらは19年度予算の概算要求基準に反映されることとなった。その後、9月に発足した安倍内閣では、基本的にこうした方針を引き継いで予算編成が進められ、12月24日、19年度予算の政府案が閣議決定された。
19年度予算の一般会計予算規模は82兆9,088億円、前年度当初比4.0%増となり、当初ベースでは2年ぶりの増加となった。景気回復が続く中、税収が前年度より7.6兆円増加する一方、歳出面では、交付税特別会計の借入金のうち国負担分の返済(1.7兆円)などから国債費が2.2兆円の増加、政策的経費の一般歳出は特殊要因もあって0.6兆円の増加となった。その結果、新規国債の発行額は25.4兆円で前年度より4.5兆円の大幅減額となり、基礎的財政収支も4.4兆円の赤字と前年度より6.8兆円の改善となった。しかし、国と地方の長期債務残高は773兆円、GDPの約1.5倍に上っており、フローでは改善しつつある財政状況も、ストックでみれば依然、極めて厳しい状況が続いている。
国会の予算審議では、様々な分野で議論が活発に行われたが、以下では、財政、経済の議論を中心に、19年度予算審議の概要を紹介したい。
税収増加に助けられた財政状況の改善
景気が戦後最長を更新する中、予算編成が進むにつれて、税の自然増収が大幅に増加する見込みとなり、その使途が注目された。予算審議の中でも、まず大幅な税収増を見込む19年度予算の性格について、政府の認識を示すよう求められた。これに対し、尾身財務相から「19年度予算では、税収の大幅増を見込んでいるが、税収増のほとんどを財政健全化に振り向け、歳出削減を徹底した予算としている。他方、多くの経費を減額する中で、科学技術、中小企業対策といった成長力強化につながる取組みや教育再生、地域活性化、少子化対策など地域や国民に政治の温かみを及ぼす取組みには重点的に対応した」との考えが示された。
しかし、厳しい歳出削減の方針を掲げながら、結果として、一般歳出が2年ぶりにプラスとなったことから、財政再建路線はむしろ後退しているのではないかと質された。これに対し、尾身財務相から「一般歳出は見かけ上、0.6兆円増加しているが、電源開発促進税の収入を特別会計から一般会計に繰り替えており、これを除けば0.3兆円の増加にとどまり、財政緊縮路線を厳しく貫いた予算である」との見解が示されたが、実質0.3兆円とはいえ、歳出規模の増加は政府方針に逆行すると見る質疑者を納得させるには至らなかった。
中長期的な財政再建への取組
19年1月に発表された「日本経済の進路と戦略」(以下、「進路と戦略」)の参考試算では、(1)新成長移行シナリオ、(2)成長制約シナリオなど、今後の財政、経済についてケース別の中期試算が示された。こうした試算を踏まえ、政府が掲げる23年度の基礎的財政収支黒字化の目標達成の可能性について質疑が行われたところ、尾身財務相及び大田経済財政政策担当相から「将来展望を描いた「進路と戦略」では2つのシナリオが示されており、順調に経済が推移する新成長移行シナリオの場合、23年度に収支が黒字になると見込んでいる。しかし、今後、財政再建を進めていく上では、金利上昇による利払費の増加や少子化対策といった財政負担について、十分に配慮していかなければならない。基礎的財政収支の均衡は財政再建の第1ステップであり、その後は債務残高の対GDP比率の安定的引下げなど、更なる財政再建に努めることが必要である。その前途は厳しいが、財政再建は我が国がどうしても解決していかなければならない課題である」との所見が示された。
なお、従来、政府が発表していた「財政改革と経済財政の中期展望」の参考試算では、過去のトレンドと足元の実績に基づいて改革の効果を平均的に見積もっていたのに対し、今回の「進路と戦略」では、成長力強化策を実施し、その効果が十分に発揮された場合の経済を示すことに主眼が置かれている。こうしたことから、「進路と戦略」の名目3.9%成長は期待値の入った数字であり、財政等の計算をする前提として使用することの是非について質された。しかし、尾身財務相は「いずれのシナリオの場合でも、財政健全化ができるような政策運営をしていきたい」と述べるにとどまり、試算に使用する前提としての是非について、それ以上議論は深まらなかった。
現在、税収は増加が続いているが、税の自然増収と歳出削減で、どこまで財政健全化が実現できるのか。今後の景気動向次第では、期待したほどの税収が入らない可能性もある。中長期的な財政再建への取り組みでは、増税を含む歳入改革の実施が不可避とみておかなければなるまい。
具体性が問われる成長戦略
政府は、昨年夏に「経済成長戦略大綱」(財政・経済一体改革会議(政府与党協議会)了承)を策定し、人口減少下でも、持続的、安定的な成長を可能とするための諸施策の検討を進めてきた。こうした中、第166回国会の施政方針演説では、安倍総理から新成長戦略を力強く推し進める考えが示された。これらを受ける形で、予算審議の中でも、成長戦略等の内容について多くの質疑が行われた。
まず、人口減少下でも経済成長が可能となる理由について、安倍総理から「今後、人口減少により労働力人口が減少していくが、IT革命を生かし新しい技術やアイデアを取り入れ、イノベーションを実現していくことで、生産性を高めることが可能である。また、中国やインドなどの成長を取り込むオープンな姿勢が大切と考えており、イノベーションとオープンな姿勢で、新成長戦略を前進させ、経済成長を確実なものにしていきたい」との考えが示された。
さらに、成長戦略の一環である「成長力底上げ戦略」について、安倍総理及び塩崎内閣官房長官から「人材能力、就労支援、中小企業対策の3つを柱に、ジョブ・カード制度の導入、最低賃金の引上げなどにより、今後3年間に、全体の底上げを集中的に実施していきたい」との考え方が示された。
政府からは、経済成長に向けた様々な構想について説明はあったものの、具体的にどのようにして、経済の成長力が向上していくのかなど、必ずしも明らかにならず、その実効性等について、質疑者を納得させるには至らなかった。今後、政府は生産性向上など成長戦略の諸施策について、より具体的な形で提示し、その効果を国民に対し、わかりやすく説明していくことが求められよう。
最長景気の持続性
我が国経済は、14年1月を底に景気回復局面に入り、2回の踊り場を挟みながらも、昨年11月にはいざなぎ景気の57か月を抜き、戦後最長の景気となった。しかし、今回の景気は設備投資と輸出に支えられた面が強く、依然、個人消費は景気を引っ張るほどの回復には至っていない。こうした状況の中、19年度政府経済見通し達成の可能性について、政府の見解が求められた。
これに対し、大田経済財政政策担当相から「18年夏以降、消費に伸び悩みが見られるが、企業部門は回復が続いている。19年度も、世界経済の回復が続く中、企業部門の改善に加え、既に正規雇用者の増加など明るい兆しが見られることから、家計部門も徐々に改善すると見込んでいる。こうした回復が持続することで、政府見通しの実質2.0%、名目2.2%程度の成長が達成されるものと考えている」旨の答弁があった。
また、バブル崩壊後、今日に至る経済成長を実現していく上では、金融政策の役割が大きかったとの見方が多く、今後の金融政策に対する考え方についても質疑が行われた。これに対し、福井日銀総裁から「経済が緩やかでも、着実に回復ないし拡大の過程をたどっていく場合、余りにも低い金利がいつまでも続くといった感覚がマーケットに定着すると様々な弊害を生む心配がある。そうしたことがないよう、今後の経済・物価情勢の変化に応じて緩やかに金利水準の調整を図っていくことが必要である。但し、当面は極めて低い金利水準を軸に、緩和的な金融環境を維持しながら、状況の推移を見守っていく」との所見が示された。なお、物価安定目標については「現状では、目標に縛られすぎて、きめの細かい政策ができなくなってはいけない」と述べ、導入には消極的な答弁に終始した。
活発化した格差論議
今回の景気回復が、大企業中心であったため、賃金など家計への波及は遅れ、地域の中小企業でも依然厳しい状況のところは多い。こうした中、所得格差の拡大をはじめ、地域間の格差、正規雇用と非正規雇用といった雇用の格差など、様々な格差問題が浮上し、国会でも多くの議論が行われた。
まず、安倍総理の格差の現状に対する認識が質されたところ、「格差はいつの時代にもあるが、格差が拡大したり固定化したり、また不公平な競争の結果、格差が生まれたりすることは問題である。汗を流しがんばり、一生懸命知恵を出した人達が報われる社会をつくっていかなければならない。今回の景気回復は企業部門の強化によるもので、しかもデフレ下の回復であったために、家計部門への波及、地域全体への波及が遅れ、格差感が生じている。こうした状況を踏まえ、何回でもチャレンジできる社会にしていくため、再チャレンジ支援の総合プランを作成し、教育訓練などの施策を講じることとした。景気回復が続く中で、各地域に生産、雇用など改善の動きが徐々に拡がり始めており、景気回復を全国に更に波及させていきたい」との考えが示された。
さらに、地域間で経済状況などに大きな差が出ていることから、地域格差にどう対応していくのかとの質疑があった。これに対し、安倍総理及び菅総務相から「地方の活力なくして国の活力なしとの考え方を基本として、財政力の弱い地域であっても、一定水準のサービスの供給ができるよう、地方税及び地方交付税の総額を確保するとともに、19年度からは「頑張る地方応援プログラム」を作成し、交付税等により支援を行うこととしている。今国会に9本の地域活性化のための法案を提出しており、政府を挙げて、地域の活性化に取り組んでいく考えである」旨の答弁があった。
しかし、地方経済の低迷が続く中、三位一体改革により、補助金の削減に加え地方交付税も減額されるなど、地方を取り巻く環境は一段と厳しさを増しているとの声は強い。政府の施策がどこまで実効性を持ち、地域経済の活性化につながるのか、今後の具体的な施策の展開が注目される。