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HOME > ニュース&ダイジェスト 法令 > 法案の解説と国会審議 > 「マネー・ロンダリング及びテロ資金対策強化のための立法措置」

法案の解説と国会審議

マネー・ロンダリング及びテロ資金対策強化のための立法措置

−犯罪収益移転防止法の成立−

平成19年3月31日公布 法律22号

著者:倉田 保雄

 平成19年3月29日、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」が成立した。本法律は、テロの未然防止に関する行動計画(平成16年12月10日、国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部(推進本部))の中で「テロ資金を封じるための対策の強化」として挙げられている「FATF勧告の完全実施に向けた取組み」を具体化するものである。

FATFによるマネー・ロンダリング/テロ資金対策への取組

 FATF(Financial Action Task Force on Money Laundering:金融活動作業部会)は1989年(平成元年)のアルシュ・サミットを契機に創設されたマネー・ロンダリング対策において国際的な協調を推進する政府間会合である。

 1990年(平成2年)にFATFは、ウィーン条約(麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約)の早期批准、マネー・ロンダリング取締りのための国内法制の整備、顧客の本人確認及び疑わしい取引の届出の金融機関への義務付け等を内容とする「40の勧告」を策定した。1996年(平成8年)には「40の勧告」を改訂し、マネー・ロンダリング罪成立の前提となる犯罪を薬物犯罪から一定の重大犯罪に拡大すべきこととした。

 2001年(平成13年)の「9.11」後、FATFはテロ資金対策もその任務とし、テロ資金供与の犯罪化、テロリズムに関係する疑わしい取引の届出の義務化等を内容とする「テロ資金供与に関するFATF特別勧告(8の勧告)」(翌年1項目追加され、現在は9項目)を策定した。

 2003年(平成15年)には犯罪技術が精巧に複合化してきたことに注目し、「40の勧告」を再改訂し、指定非金融業者(不動産業者、貴金属及び宝石等取扱業者等)・職業専門家(法律家・会計士等)を勧告の適用対象とした。

 FATFの勧告は、マネー・ロンダリング/テロ資金対策の国際的スタンダードであり、勧告の実施状況はメンバー国の相互審査制度(mutual evaluation)により検証されている。

 一方、1995年(平成7年)には、FIU(Financial Intelligence Unit:金融情報機関。マネー・ロンダリング(及びテロ資金供与)に関する情報の受理・分析・提供を行う単一の政府機関)の情報交換の場であるエグモント・グループが活動を開始し、1998年(平成10年)のバーミンガム・サミットでは、各国がFIUを設置することに意見の一致をみた。

FATFの勧告に対する我が国の対応

 我が国は平成元年にウィーン条約に署名、2年には顧客の本人確認義務等について大蔵省銀行局長通達を発出した。3年に麻薬特例法(国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律)が成立し、薬物犯罪の収益等に係る「疑わしい取引の届出」の制度が整備された。

 平成11年には組織的犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)が成立し、疑わしい取引の届出の対象となる犯罪を一定の重大犯罪に拡大するとともに、薬物犯罪の収益等に係る「疑わしい取引の届出」も同法に規定されることとなった。また、金融庁に特定金融情報管理官及び特定金融情報室が設置された(日本版FIUの誕生)。

 平成14年にはテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約の批准及び公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の制定により、テロ資金の提供・収集等を犯罪化するとともに、テロ資金の疑いのある取引の届出の義務を金融機関に課した。また、本人確認法(金融機関等による本人確認等に関する法律−平成16年改正により、題名も「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」に改められた−)により、金融機関等に顧客等の本人確認、本人確認記録・取引記録の作成・保存等の義務を課した。

「テロの未然防止に関する行動計画」策定から法律案の提出までの経緯

 推進本部は、平成17年11月17日に「FATF勧告実施のための法律の整備について」を決定し、〈1〉法律の目的を資金洗浄対策及びテロ対策とし、警察庁が法案作成を行う、〈2〉本人確認法及び組織的犯罪処罰法第5章を参考に法案を作成する、〈3〉FIUを警察庁に移管し、業所管(指導)官庁が届出等に関する関係業界への指導・監督責任を有する等、ここに法律案の方向性が明らかにされた。

 法律案が〈1〉指定非金融業者・職業専門家への「疑わしい取引の届出」等の適用対象の拡大、〈2〉FIUの警察庁への移管、を柱とするものであったことから、新たに対象とされる事業者、とりわけ日弁連(日本弁護士連合会)と政府の間で活発な議論が展開された。日弁連は、当初テロ対策の必要性やFIUが金融庁に設置されていることから、日弁連が弁護士からの報告を審査した上で金融庁に通知する構造であれば市民の弁護士に対する信頼や弁護士自治にとって、「より侵害的でない制度の構築も可能」として、関係機関と協議を進めてきた。しかし、11月17日の推進本部決定を受け、「警察への報告制度は、弁護士・弁護士会の存立基盤である国家権力からの独立性を危うくし、弁護士・弁護士会に対する国民の信頼を損ねるものであり、弁護士制度の根幹をゆるがすもの」として強く反対していくことを決定した。

 警察庁は、平成18年10月19日、「犯罪収益流通防止法案(仮称)の検討状況について(弁護士規定関係)」において、法律・会計専門家は、本人確認、取引記録の保存及び疑わしい取引の届出の措置を講ずる責務を有するが、守秘義務の範囲を変更するものではないこと、弁護士が講ずべき措置の内容は日弁連の会則で定め、疑わしい取引の届出先は日弁連とする、弁護士が講ずべき措置に関し行政庁の監督は行わないこと等を提案した。

 この提案は日弁連に受け入れられるに至らず、警察庁は法律・会計専門家の届出義務を課す方向で法案化の作業を進めたものの、最終的にはこれを課さない法律案が提出された。

法律の内容

〔目的〕本法律は、犯罪による収益の移転防止を図り、併せてテロ資金供与防止条約等の的確な実施を確保し、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与することを目的とする。

〔特定事業者〕本法律の措置の対象となる特定事業者には、組織的犯罪処罰法及び本人確認法で対象とされてきた「金融機関等」に「ファイナンス・リース業者」「クレジット・カード業者」「宅地建物取引業者」「貴金属取引業者」「郵便受取・電話受付サービス業者」、法律・会計専門家である「弁護士」「司法書士」「行政書士」「公認会計士」「税理士」(いずれも法人を含む)等を加えた43事業者が指定される。

〔特定事業者による措置等〕特定事業者(弁護士を除く)は政令で定める取引につき〈1〉本人確認義務、〈2〉本人確認記録を作成し、7年間保存する義務、〈3〉取引記録を作成し、7年間保存する義務を負う。また、顧客等が本人確認に応じない場合、当該取引にかかる義務の履行を拒むことができる。特定事業者(法律・会計専門家を除く)は、〈1〉収受した財産が犯罪による収益である疑い、〈2〉顧客が「犯罪収益等隠匿」若しくは「薬物犯罪収益等隠匿」の罪に当たる行為を行っているとの疑い、があるときは監督官庁に届け出なければならない。監督官庁は、当該届出に係る事項を国家公安委員会に通知する。

 業として為替取引を行う特定事業者が外国為替取引を行うときは、顧客等の本人特定事項等を通知しなければならない。

〔弁護士等による本人確認等に相当する措置〕高度な自治が認められている弁護士の顧客等の本人確認義務、本人記録作成・保存、取引記録作成・保存義務は、他の法律・会計専門家の例に準じて日弁連の会則で定める。

〔疑わしい取引の届出についての情報の提供〕国家公安委員会は、疑わしい取引に関する事項、外国FIUから提供された情報、これを整理・分析した結果が組織的犯罪処罰法、麻薬特例法で規定される犯罪に係る刑事事件又は犯則事件の調査に資すると認めるときは、これを検察官等に提供する。また、国家公安委員会は外国FIUに、その職務の遂行に資すると認める、疑わしい取引に関する情報を提供することができる。

〔行政庁による監督〕特定事業者を監督する行政庁は、報告・資料の提出を求めるとともに、営業所その他の施設への立入検査、指導・助言・勧告、是正命令を行うことができる。

〔国家公安委員会の意見の陳述〕特定事業者の義務違反を認めたときは、国家公安委員会は行政庁に是正命令又は業務の停止等の処分を行うべき旨意見の陳述ができる。国家公安委員会は、これに必要な限度で特定業者に報告・資料の提出を求め、又は都道府県警察に必要な調査を行うことを指示することができる。警視総監又は道府県警察本部長は国家公安委員会の承認を得て、特定事業者の営業所への立入、検査、質問等をすることができる。

〔罰則〕是正命令違反、国家公安委員会等への虚偽の報告等、資料提出・立入検査の拒否、正当な理由なく預貯金通帳等を譲り受ける行為等について罰則が規定されている。

〔検討〕犯罪による収益の移転防止のための制度については、本法律の施行状況、国際的動向等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づき必要な措置が講ぜられるものとする。

国会における主な議論

□FIUの国家公安委員会への移管 移管の理由について国家公安委員会委員長は、金融機関以外の業種が措置の対象となること等を契機に、暴力団その他の組織犯罪対策、あるいはテロ対策に中核的な役割を担っている国家公安委員会並びに警察庁にその機能を移管することが適当との判断によるものであると説明した。また、これに伴って、暴力団、テロ組織、大量破壊兵器関連物資等に関する資金対策の推進強化を図り、関連情報や専門的知見を活用した分析、あるいは国際捜査共助等の経験を生かした外国機関との情報交換の促進が期待できると説明した。

□法律・会計専門家への対応 弁護士その他の法律・会計専門家に「疑わしい取引の届出」の義務を課さなかった理由について警察庁は、依頼人との信頼関係に与える影響を考慮して、立案の段階で守秘義務に係る部分は届出から除外する、弁護士については、弁護士会、日弁連が自治的な団体であることを考慮して、実際の規範については会則で定める、監督は日弁連が行うような仕組みを考えていたが、なお依頼者との関係に与える影響について懸念が示されたので、引き続き検討を行うこととしたと説明した。また、国家公安委員会委員長は、将来、疑わしい取引の届出義務の対象に加えるという、結論ありきという考えは持っていないと述べた。

□「疑わしい取引」を判断するためのガイドライン 金融機関以外の新たに指定される特定事業者への対応について警察庁は、各事業者の意見を十分に反映させ、なおかつマネー・ロンダリング実態の問題等があることから、国家公安委員会、警察庁の意見も述べて、各事業者ごとその事業所管官庁において作ることになるとの考えを示した。

□「疑わしい取引」に係る情報の集約に伴う個人情報の保護 国家公安委員会委員長は、警察庁の内部で情報の取扱者をあらかじめ限定し、登録者以外のアクセスの禁止、登録者による業務目的以外のアクセス防止のためのアクセス記録保管、当該アクセスの正当性の検証などを講ずる。さらに情報セキュリティー監査も実施して、こういった対策がしっかり実施されていることも確認できるようにしたい等と述べた。

□都道府県警察による立入検査 立入検査の実施が犯罪捜査と混同を生ずることにはならないかとの懸念が示されたことに対して警察庁は、これまでこのような混同が生じたのは罰則あるいは罰則適用を前提とした告発がなされるような手続と行政調査が混在している場合であるが、今回の制度は事業者の義務違反に対して罰則がもともとついていないので、行政調査をして行政処分を行うルートしかない。また、運用には慎重を期したい旨述べ、懸念には及ばないとした。

□FATFによる相互審査の見通し 平成19年秋にFATFの相互審査が行われることが想定されている。我が国の対応及び見通しについて国家公安委員会委員長は、本法律の成立、施行により我が国のマネー・ロンダリング対策、あるいはテロ資金対策が大きく前進したことを強調したい。弁護士その他の士業が届出義務の対象外となったことについては、何らかの指摘を受けると思うが、日弁連は自主的な取組もしていただいていることも含めて、我が国のこういった施策の前進について理解いただけるよう努力したいと述べた。

今後の課題

 本法律中FIUの国家公安委員会への移管に不可欠な部分は平成19年4月1日に施行された。警察庁長官官房に犯罪収益対策を担当する審議官が、刑事局組織犯罪対策部に犯罪収益移転防止管理官が設置され、40人規模で新たなFIUがスタートした。法律の他の規定は一部を除き、公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日に施行される。疑わしい取引の届出の義務付けが、国民、特定事業者双方に過剰な負担をかけることなく実施されるべく態勢が整備される必要がある。

 本法律は2003年(平成15年)に改訂されたFATFの勧告を完全実施するはずのものであったが、勧告の柱であった「職業専門家」について疑わしい取引の届出を規定するには至らなかった。その結果、「条約と異なり、それ自体法的な拘束力を持つものではないが、国際社会で広く共有されるべきものとして各メンバーは国内での実施の取決めを政策的に求めらている」(法律案審査の際の外務省の答弁による)とされる「FATF勧告」と乖離が生じたことは事実である。我が国に対する相互審査において一部厳しい評価が下されることも想定されるが、その結果及び諸外国に対する審査結果も踏まえて制度の在り方及び運用についてさらに議論を行い、検討が行われることになる。

 グローバリゼーション及び情報化の進展とともに、犯罪のグローバル化もまた加速している。これに対応する法執行機関の活動はあくまでも国家主権の行使であり、そこには国境という壁が立ちはだかっている。これがさまざまな形態による国際的な連携、協調が必要とされる由縁である。しかし、本法律の制定過程でも表面化したように、それに伴って国内の諸制度との軋轢ないし緊張関係が生じる可能性がある。この点を常に念頭に置き、国際犯罪対策あるいはテロ対策に取り組むことが必要である。

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